2020年8月6日木曜日

無名の殉教者・シーズン3:復活



 

無名の殉教者・シーズン3:復活


 全く、切支丹の痕跡も無くなった時代、一人の若者が立ち上がった。彼は、周辺の人々を救済するため食料の備蓄を藩に願い出るが認められなかった。
 それでも強行する彼は、罪人として処刑された。
 だがその遺志は引き継がれ、共助に救いを見いだす。
 やがて、明治維新を迎え、支配的立場にあった人々の子孫に牧師が誕生した。

エピソード1:廃村の復興

  かつて切支丹信徒が復興した村落も、度重なる弾圧と飢饉や疫病の蔓延で、うち捨てられていた。
  日本近海にロシア船が出没するようになり、藩財政が逼迫する中、更なる米の増産が必用となった。
  藩士の次男以下を捨て置かれた村々に投入して、復興することになった。

エピソード2:俵物

  次々と廃村に人が戻ってきた。城下周辺の村々には、活気が戻ってきた。
  だが、山深い地には米が採れなかった。多田と言う男、鉄砲による猟や炭焼きで生計を立てていた。
  米では年貢が納められないので、炭で年貢を納めるように交渉していた。

エピソード3:水路と絆

  およそ弘前の町の始まりと時を同じくして、岩木川下流域の新田開発に功を奏する堰が開削された。
  堰を通じて、上流域・下流域も交流が生じた。

エピソード4:共助

  伊佐治(いさじ)は、村人たちに共助の大切さを説く。

 1.心から求める者は、幸いである。天の国が受け入れて下さるであろう。
 2.悲しむ者は幸いである。慰めるられるであろう。
 3.温厚な者は幸いである。不動の信頼を得るであろう。
 4.義を求める者は幸いである。多くの義が集まるであろう。
 5.情け深い者は幸いである。情けに浴するであろう。
 6.正直者は幸いである。神を見るであろう。
 7.太平をもたらす者は幸いである。太平の申し子と呼ばれるであろう。
 8.義を貫く者は幸いである。天の国が歓待するであろう。

エピソード5:倉廩

  倉廩とは、穀倉のことである。
  特に江戸時代末期、飢饉に備え米を備置する倉を倉廩と言った。
  伊佐治は、神社に奉納する米を多めに倉廩に保存することで、飢饉に備えた。
  神前に供える米は新米を用いるが、残りの米を備蓄に回したのだ。

エピソード6:一揆

  既にある登場人物をあげておく。

イエス:伊佐治(いさじ)
     代理の庄で二十代前半の若者。所帯持ちで、最近、女の子が生まれたばかり。
     父親が庄屋を引退して、長男が跡を継いで庄屋をしていたが、流行り病で急逝したので、急遽庄屋となったが、まだ見習い中。
     そもそも、庄屋を継ぐつもりが無かったので、学問で身を立て村に貢献するつもりだった。

シモン・ペテロ:巌太郎(いわたろう)
     伊佐治の隣村の庄屋。老練なことで有名だった。若い伊佐治を我らの見習うべき”師”として引き立てていた。
     伊佐治が捕らえらえると、代官屋敷に潜り込み救出を試みるが、代官の下女に見つかり逃げる。
     伊佐治が処刑されてしまうと、やっと何を主眼に訴えていた気づく。

ゼベダイの子ヤコブ:三尺坊(さんじゃくぼう)
     この名前は、あだ名。
     農民だが、岩木川の川漁師もやっている。

ヨハネ:修庵(しゅうあん)
     農民の子として生まれたが、学問に興味を持ったことから寺に預けられていた。
     伊佐治の弟分に当たる幼馴染で、村の一大事に寺を抜け出して、駆けつけていた。

アンデレ:安次郎(やすじろう)
     巌太郎の弟。気さくな若者で、顔が広い。

フィリポ:強力(ごうりき)
     この名前は、あだ名。
     村や藩の作事に借り出される大男の威丈夫。

バルトロマイ:兼子(かねこ)
     藩士による農村復興事業に従事していた。武士の面子が邪魔して、農作業に本気で取り組んでいなかった。

マタイ:午平(ごへい)
     代官所に出仕していて、年貢を集める役についている。
     村人の嫌われ者。

トマス:数馬(かずま)
     藩士による農村復興事業に従事していた。藩士の三男であり、家督の相続が望み薄なので、新田開発で知行地を得ようと目論んでいた。
     農業に関して知識が無いので、猜疑心の塊となっていた。
     伊佐治の死後、共同体としての農村のあり方に気づく。

アルファイの子ヤコブ:八十治(やそじ)
     母親同士が姉妹でったので、伊佐治の従弟になる。

タダイ:多田(ただ)
     先祖は、戦国時代の鉄砲隊の隊長だったが、戦に破れて津軽に流れ着いて、湯段村で代々猟師と湯守をやっている。
     山間僻地に暮らしているので、年貢を米ではなく、炭で納めたいと伊佐治に相談していた。

熱心者のシモン:西門(にしかど)
     藩政改革派の急先鋒。土堂村の半地下になった牢に幽閉謹慎の身になっていた。

イスカリオテのユダ:碇村の重太郎(いかりむらのじゅうたろう)
     伊佐治の支援者にして、活動の下働きを担っていた。
     伊佐治を助けたい一心から、役人に伊佐治の保護を求めるが裏切られる。失意のうちに首をくくる。

バラバ:弥三郎
     伊佐治と共に捕らえられるが、弥三郎は年貢の減免を全面に出し、民衆には大いに人気があった。
     恩赦で開放されるが、伊佐治の訴えが後に正しいことを知る。

エピソード7:遅すぎた恩赦

  ここでも、以前書き込んだ登場人物をのせる。

百人隊長:本多東作久貞(ほんだとうさくひさただ)
     伊佐治の訴えが正しいことを知る。
     後に子孫が牧師になる。

村医者:澤野順庵(さわのじゅんあん)
     農民として暮らしながら、地域医療に取り組む。
     伊佐治の事跡を書き留める。
     とにかく子沢山。人だけでなく、農耕に使う牛馬や犬や猫までも、治療する。

ピラト:中田長助(なかたちょうすけ)
     伊佐治が集会を開いた村の代官。

ヘロデ王:津軽寧親(つがるやすちか)
     伊佐治が主導した一揆の際の藩主。良き意見には、身分のわけ隔てなく耳を傾ける。
     伊佐治の助命を許可するが、間に合わなかった。

  津軽寧親公、伊佐治の指摘で自らの至らぬ所を知り、恩赦を発令するが、弥三郎は助かるが伊佐治は取上の刑場で処刑されてしまう。

エピソード8:叶えられた望み

  一揆を起こした百姓たちには、僅かばかりの年貢の減免があった。
  新嘗祭に使う米で残った米は、備荒米として保管することに対して許可が出た。
  更に、備荒米を融通しあうことに関して、藩は勝手知らないと言うことにした。
  伊佐治が言う共助を守った村々は、天保の飢饉を乗り切ることができた。
  だが、孤立した村は全滅を免れなかった。

エピソード9:百人隊長

  伊佐治の処刑に立ち会った。
  伊佐治は死に際にあっても、仲間に共に助け合うことを薦めていた。

エピソード10:横浜

  本多東作久貞の孫・本多庸一と佐々木何某は、藩の命令で英語を習いに横浜に来ていた。
  この2名、今の横浜・元町の洋菓子店に立ち寄ったところで、店主にこんなことを尋ねたらしい。

「この菓子、どこのご家中に納めている?」

 かなり困惑した店主が言った。

「どこと申されても・・・
 お代を頂ければ、どちら様にでも、お売り致します。」

 そこで、佐々木が更に尋ねた。

「なれば、我らでも良いのか?」

 店主曰く・・・

「はい、お代さえ頂ければ、どちら様にでも。」

 佐々木を制する本多であったが、佐々木は本多に言った。

「これも良い経験だ。食おうではないか!」

 少々値は張ったものの、初体験の洋菓子はすこぶる美味かったらしい。
 後にこの佐々木は弘前で洋菓子店を開き、本田はバラ塾に入門して、受洗して牧師になった。

エピソード11:それぞれの道

  廃藩置県の後、佐々木何某は洋菓子で、本多はキリスト教で、それぞれにそれぞれの道を目指して進むのであった。

エピソード12:教会

  本多は、廃校となっていた藩校をミッションスクールとして再開し、自宅に弘前教会を開設した。
  やがて、カトリック教会が建ち、聖公会の教会が建った。
  そして、かつて切支丹の処刑場のあった場所に聖母被昇天修道会の修道院が建った。






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