2017年3月12日日曜日

無名の殉教者 - 第2部殉教編(地の巻):村の様子


 切支丹の村を前にして検地役人の会話から見えてくる村の様子。

佐々木
あの鍬を降るっている若い男女の素性が分かるか?
工 藤
兄に妹か?
佐々木
なぜそう思う?
工 藤
若く見えるが、夫婦なら赤子でも背負うなり、近くに置くなりしているものだ。それが、いない。
佐々木
あれは、子供が生まれて間もない夫婦だ。
工 藤
赤子は、親元にでも預かってもらっているのか?
佐々木
二人とも、両親を亡くしている。
工 藤
では、誰が赤子の面倒を見ている?
佐々木
一人暮らしの婆さんが、面倒を見にきている。
工 藤
身内の者か?
佐々木
いや、ここに村ができてからの者だ。
工 藤
頼って、いいものか?
佐々木
あの夫婦は、信頼しているようだ。
工 藤
他者とは、信用して良いものなのか?
佐々木
切支丹は、信用に足る何かを知っているようだ。
工 藤
それは何だ?
佐々木
御大切(ごたいせつ)とか言うが、何のことか、分からぬ。
工 藤
お前でも分からぬものあるとはな。
若い夫婦は、作業の手を休めて、役人に深々とお辞儀をした。実に人の良さそうな夫婦であった。佐々木が、切支丹の七日講には行かないのかと、訪ねた。だが、夫婦は自分たち子供の世代以降は七日講には、出てはならぬとのことだった。それよりも、慈悲の所作の実践を勧められているとのことだった。
 また、若い夫婦には、開けた農地が割り当てられ、多くの村人は、更に荒れた土地の開墾に従事していた。

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