2017年3月28日火曜日

或る物語 - 邂逅


 時代は昭和30年代。地方都市の盛り場で、二十歳の若者と18歳になる彼女、それにこの若者を兄貴と慕う16歳の少年。
 盛り場のゴミ箱を漁る子犬がいた。通りかかったヤクザが子犬を蹴飛ばそうとした。少年は子犬を守るためにとっさにヤクザを突き飛ばした。
 ヤクザが少年の胸倉を掴み上げると、今度は若者が少年を守りために、ヤクザに殴りかかった。ところが、若者はヤクザに返り打ちに遭い、挙句に短刀で刺され瀕死の状態で、白い大きなドアに倒れこんだ。中にいた人に助けられ、ヤクザは追い返された。
 白いドアの建物はプロテスタントの教会だった。助けたのは牧師先生だった。あまりの出来事に棒立ちになっている彼女に一喝したのは看護師資格を持つ牧師夫人だった。

「あなた!何突っ立ているの!早く止血、止血!!手伝って!」

 牧師夫人と彼女で救急処置をして、救急車の到着を待った。
 搬送先で若者は、一命を取り留めた。

 あの少年は、ヤクザと若者が取っ組み合いになっている間に、子犬のあと追っかけて垣根を越えていった。やっと子犬を捕まえると、兄貴が心配になって戻ってみると、血の海になっていた。
 少年は怖くなり、さっき子犬を捕まえた場所に戻った。そこに少年が壊した垣根を直す老人がいた。少年が助けを求めた腰紐を結んだ老人は修道士で、そこはフランシスコ会の修道院だった。

 若者は、助けてくれた牧師先生に感動し、自ら神学校に入り牧師となった。若者の彼女は、牧師夫人の指導や助言を得て、看護師の資格を取り、若者と結婚した。つまり、牧師夫人となった。
 そして、少年は修道生活を送りながら勉強を再開させ、大学入学資格検定にも合格した。だが、大学には行かず、修道院に残った。

 牧師先生になった若者は、あの夜の少年が心配だった。消息が分からなかったのだ。
 また、修道士となった少年も、あの夜の兄貴が心配だった。

 ある年の年の瀬、街にはクリスマスの飾りや、クリスマスキャロルが溢れていた。幸福に満ち溢れていた。
 そこに、初老になった牧師先生が教会の子供たちと、『クリスマスを教会でお祝いしましょう!』と書いたプラカードを持って歩行者天国を歩いていた。
 あの少年も、すっかり老けた修道士になっていた。その修道士の耳にも、牧師先生と子供たちの声が聞こえてきた。この修道院は、あの迷い犬がきっかけで、犬のしつけ訓練も修道院の貴重な収入源となっていた。
 修道院の子犬がトコトコと駆け出し、外へと出て行く。追う修道士。子犬は、教会の子供たちに抱っこされていた。そこで、分かれて久しい若者と少年が再会した。多くは語らない。

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